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FireAlpaca SE 3.0 のアップデート内容 (2025/11/11)

FireAlpaca SE 3.0 は開発に5年ほどを費やした、FireAlpaca史上最大のビッグアップデートです。

あまりにも開発が長すぎて何が変わったのか忘れがちなので、非公式ながら「FireAlpaca無料版から」何が変わるのかまとめておきます。

「新ブラシエンジン」



以前から「ブラシの表現力が低い」と言われる事がありました。表現力の高い低いとはパラメータの多い少ないだと思うので、なるべく多くのパラメータを用意して、細かくコントロールできるようにしました。UIもストロークや機能ごとにタブ化して、把握しやすいように工夫したつもりです。当初はずらずら全て並べてしまっていたんですよね(笑)。

従来は「散布水彩」とか「色混ぜ」とか、基本的なブラシのスタイルがあって、そこからパラメータを調整 (最大10パラメーター) する感じだったんですが、これだと新しいブラシを追加するのも大変だったんですよね。他のツールと同じように「一つのブラシタイプで何でもできる」ようなものを用意しました。これが新ブラシエンジンという感じです。

新規性の高い特徴としては、

・3ストローク同時合成 (ストローク同士のマスクやクリッピングが可能)
・多彩なブラシ先端表現 (円、ビットマップ、SVGパス)
・点描表現 (既に描画された場所に上書きしない)

などがあります。従来からの改善としては、

・スタイラスの回転角をパラメータに影響
・ストローク色のオフセット、ジッター操作
・ブラシテクスチャの強化 (先端への適用、ストローク全体への適用)
・水彩パラメータに水分量を追加
・散布の強化
・柔軟性の高い複数ブラシ先端対応
・アンチエイリアスの強さ対応

などがあります。 新ブラシエンジンについては「詳解 FireAlpaca SE 3.0 新ブラシエンジン」みたいな記事で徹底解説したいと思っています。

「16bit/chレイヤー」

多くのペイントツールでは、RGB各階調は8bit (8bit/ch) であり、0から255までの256段階で表現を行います。これはイラストの完成形としては十分かもしれませんが、編集時に情報の劣化が生じやすいです。

例えば、8bit/ch では、レベル補正やトーンカーブ補正を行うと、階調(グラデーション)がガタガタになりがちです。

3.0 で採用した 16bit/ch レイヤーは、各チャンネル0から65535までの65536段階でデータを保持できます。ちょっとやそっとのフィルタ処理、塗り重ねやぼかし処理では、画像の劣化は認識できません。

ただ、メモリは消費は倍になるので、その点は気をつけてください。



[画像解説] 左1/3が元画像。中央が8bit/ch、右1/3が16bit/chレイヤーで、トーンカーブ処理を2回(トーンカーブを適用して、逆のカーブで元に戻す)行ったもの。8bit/ch だとトーンジャンプが起こっている事が分かる。

「GPUフィルタシステム MFG」

Modern Filter-language for GPU

目玉機能です!

従来、フィルタというのは、最初からアプリに組み込んでおくか、プラグインのような形で「事前に、各環境用に用意した、ネイティブバイナリ」として追加する必要がありました。

例えば「色収差フィルタ」をプラグインとして提供するなら、プログラマが Windowsのコンパイラで色収差フィルタのプラグインをコンパイル、macOSのコンパイラで色収差フィルタのプログラインをコンパイルして、各環境用のネイティブバイナリでのフィルタプラグインを用意する必要があります。

これは開発環境を用意するだけで大変です。しかも、iOS環境ではネイティブバイナリをプラグイン的にアプリに追加する事は許されていません。どうしたらいいんだ……。

という問題を解決するのがMFGです。MFGでは、独自開発されたフィルタ専用言語を「各OSごとのシェーダ言語」に変換して実行することで、スクリプト的な気軽さ、GPU処理の高速処理、iOS環境でのフィルタプラグイン対応など、様々な課題をズバっと解決します。FireAlpaca SE 3.0 自体でもある程度は開発できますが、専用の開発環境 MFG Studio も提供しています。

むっちゃ凄いし「これしかない」って仕組みなんですけどねぇ。時代が早すぎるせいか、あまり理解されなさそうで悲しい……。



[画像] アプリ内蔵の「MFGストア」で、1クリックでMFGフィルタを追加可能です。これは便利すぎる!!!!!!!!!!

「新標準ファイルフォーマットMDZ」

MDPファイルは20年前に考えたフォーマットです。「XML部 + バイナリ部」という、プロパティを追加しやすいフォーマットを目指して開発しました (そこは良かったですね)。

それから20年、メニーコアCPUは当たり前、差分保存は当たり前、高い堅牢性……などなど、テクノロジーの進化により要求される水準は高くなってきました。そこで、標準ファイルを刷新することにしました。それがMDZ形式。

読み書きのマルチスレッド対応、新しい圧縮フォーマットの採用、高い堅牢性、超高速差分保存(Ctrl+Sを連打してみてください)など、様々な改善が行われています。

「プロジェクト管理機能」

漫画のような複数ページを管理する、プロジェクト機能を追加しました。

これは当初予定にはなかったんですが、正式リリースの延期と引き換えに実装されました。MDZファイルを管理できるようになった以外は、mdiapp+ のプロジェクト管理機能と変わらないです。

「キャンバスの一時的なグレースケール表示」

要望があり、「確かに良いかも」と思って実装しました。確かに、プロフェッショナルには必要な機能かもしれませんね。これも当初の予定にはなかった機能です。

「表示」メニューから、キャンバスを一時的にグレースケール表示で確認することができます。

「描画や合成時のガンマ考慮」

レイヤーやキャンバスを合成する時、「ブレンド処理」という、描画元と描画先のRGB値を混ぜる(ブレンドする)処理を行います。0..255や、0..65535 の値ですね。

この値は、実際の輝度とは異なる「ガンマ補正」が行われた値です。この値のままブレンドを行うと、微妙に黒ずんだ計算結果になります。まぁ、気にならない人が殆どだと思いますが、「赤と緑をブレンド」した際などは顕著に黒ずみますね。

そんな時に、この設定を行うと、「いったん値をリニア値(本来の輝度)に戻した後、ブレンドを行い、元の値に戻す(ガンマ補正)」という処理を行うようになります。

8bit/ch では精度不足でガンマ補正により値が飛び飛びになりがちなので、微妙に滑らかさが損なわれる可能性があります。16bit/ch での使用がオススメかもしれません。

MP4書き出し (Windows)

タイムラプスやアニメーションをMP4形式出力できるようになりました (Windows版のみ)。



レイヤーリストのメモリ使用量表示



レイヤーリストにメモリ使用量を表示できるようになりました。旧来のシンプル表示にも変更可能です。表示されていると安心感があって、意外と良いですね(笑)。

ダークUI (2.xから)

ダークUIが選べるようになります。外部の開発会社様に依頼し (多くの開発費をかけて)、実現しました。

歪みブラシ (2.xから)

いわゆる Liquify というツールですね。

アルゴリズム的に言えば、「どれだけ歪むか(離れた場所のピクセルを参照するか)」という「縦と横のオフセット値 (最初は (0,0) で初期化されている)」を保持しているバッファに描画 (座標値の加算) を行うことで、メッシュ変形とは違う滑らかな変形が可能になります。

レイヤーマスク (2.xから)

レイヤーに「マスク情報」を付加する、レイヤーマスク機能が追加されています。

マスク情報とは、「レイヤーの不透明度を操作し、レイヤーの一部を隠す」ことができる機能です。実際にレイヤー(画像)のアルファ値を操作するのではなく、アルファ値を操作するだけの付加情報を追加するのがミソです。「やっぱやめた」と思った時に、簡単に元通りにできます。

ブラシリストのサムネイル表示 (2.xから)

サムネイルが表示が標準になります(従来の名前だけのリスト表示も可能です)。

特別なブラシ (2.xから)

FireAlpaca SE 限定のオリジナルブラシが多数ダウンロード可能です。

こちらにリストがあります

まとめ

いかがでしょうか? かなり多くの機能の追加されていると思います。

基本的に「よりプロフェッショナル、より専門的に、よりハイテクに」といったプラスアルファ的な機能に絞っているので、「無料版と殆ど変わらない」と感じられた方は、そのまま無料版を。もし何か気になる機能があったら、SEを選択肢に入れて頂けると嬉しいです。