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電遊少年ジャンクを描いたのは誰なのか? (2024/11/03)

「電遊少年ジャンク」(作・蘭海×龍善)は、赤マルジャンプ1997年春号に掲載された、読み切り漫画だ。

「赤マルジャンプ」は、週刊少年ジャンプの増刊号で、主に新人漫画家の登竜門として、読み切り作品が20本程度掲載されていた漫画雑誌である。「季刊誌」として、春夏秋冬の年4回刊行されていた。私はその前身、「Summer (Spring/Autumn/Winter) Special」の頃から好きで読んでいた。

電遊少年ジャンクは、異色の作品である。先ず、作者が「蘭海×龍善」を名乗っていた。「それなら、電遊少年ジャンクを描いたのは、蘭海×龍善でしょう?」と思うかもしれない。しかしながら、これは作品内の兄弟の名前である。漫画家志望が掲載を目指す季刊ジャンプに、このペンネームは異様に見える。作家としての先を考えない、この作品だけのために付けた適当な名前としか思えない。

そして、この作品の先見性である。

あらすじはこうだ。天才エンジニアを父親に持つ、双子の夏井兄弟(17歳)は、父が経営する会社を弟の蘭海が引き継ぐ。新社長・蘭海は、新規事業計画「週刊少年ジャンプ改造計画」を発表する。少年ジャンプを通信回線で配信し、それを専用ディスプレイ「液晶ジャンプ」で読む事ができる。ライバル心を持った兄・龍善は、「インタラクティブ少年ジャンプ」という、掲載作品を切り貼りできたり(いわゆる雑コラ)、漫画の台詞に声優の声を当てる事ができるサービスを開発する……。

この「予言書のような作品」を季刊ジャンプに掲載させてしまったという所が凄い。1997年といえば、Windows98 すら出ていない。iPadどころか、パソコンは液晶ディスプレイでもなく、ブラウン管のモニタを使っている時代である。iモードが発表されたのは、1999年だ。そんな時代に、モバイル液晶ディスプレイで漫画を読ませ、通信回線で配信を行い、更にユーザーに作品の切り貼りや二次創作までさせてしまう、という世界を生み出している。

1997年当時はすんなり受け入れてしまっていたが (情報系の学生だったので)、今思えば異様な作品である。「蘭海×龍善」とは誰なのか? どういう経緯で掲載されたのか?

私は「編集者自身が描いた」か「編集者が話を考え、(漫画家志望の新人ではなく) 近しい人物に作画をしてもらった」のではないかと推測している。

季刊ジャンプは殆ど廃棄してしまったが、この作品が掲載されている赤マルジャンプだけは、捨てることができない。