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身近な天才作曲家 (2023/01/31)
高校入学祝いに高価なものを買ってくれるという事で、パソコンと迷った挙句、シンセサイザーを買ってもらった。キーボードにシーケンサーが付いていて、16トラック程度の曲が作れるというものだ。キーボードを練習したり、チマチマと打ち込みをしたりと楽しませてもらった。
シンセサイザーは自分だけが使うのではなく、二歳下の弟も暇を見て使っていた。キーボードを弾いて練習するわけではなく、シーケンサーでオリジナル曲を打ち込むのに熱中していたようだ。当時は弟と同じような音楽が好きで、ロックやメタルやプログレの話をよくしていた。インターネットもない時代だったので、ディスクユニオン、パワーロックトゥデイ、BURRN!などが主な情報源だった。
自分はシーケンサーで、Far Beyond The Sun のまがい物のような曲を、尻切れトンボでまともに作り上げる事もできなかった。ドラムとベース、キーボードで主旋律……その程度の曲が精一杯(今思い出してもつまらない曲だ)。そんな私を尻目に、弟は異常なスピードで作曲能力とシーケンサーの操作を開花させていった。一曲ごとに洗練されていき、ついに4,5作目で、ぶっ飛ぶような曲を私に聴かせてくれたのだった。
ストリングスから始まる、重厚なイントロ。ヘヴィなリフと、和のテイストの主旋律。ダークなシンフォニックメタル。ドラマチックな展開と、独創的なメロディ、それがアウトロに向けて複雑に重なり、カタルシスと共に曲は終わる。粗削りだが(これは誤差の問題で言いがかりみたいなものだ)、やりたかった事は伝わる。
なんだ、この才能は。当時から「これは勝てない…」と思っていたが、今となっては天才だったとしか言いようがない。あれから何十年も経つが、似たような曲を耳にしたことはない。インターネットもない時代だし、同じような情報源で音楽を聴いていたので、剽窃だったという事はないだろう。今聴いても輝いている。
これが、他人だったらそこまで嫉妬を感じなかっただろう。「家庭環境が違うよね」「聴いてきた音楽が違うよね」と。しかし、一緒に暮らす弟となれば、そんな差はない。純粋な才能の差としか言いようがない。絶望的な、DNAによる才能の差を見せつけられた。
高校時代を最後に、音楽は聴くだけの趣味で、たまに楽器を買ったり弾いたり楽しむ程度の趣味になった。プログラミングに注力していった(プログラミングの才能はあったと思うので良かったかもしれない)。
現在、弟は特に音楽関係の仕事にはついていない。あの時代、インターネットやSNSが存在したり、そのまま音楽の道に進んでいたらどうなっていただろう。今でもたまに考えてしまう。